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1998年7月20日放送分 自ギャグの詩 - 深夜の馬鹿力データベース

1998年7月20日放送分 自ギャグの詩

 僕が小学校4年生の時、一番の仲良しだったT君の事を少し書きたいと思います。
 僕の家とT君の家はすぐ近くで、学校が退けるとよくファミスタをやって遊びました。
 お互いそれぞれファミコンもファミスタも持っていたのですが、大抵の場合球場は僕の家で、ごく希にT君からのお誘いがあるとT君の家でゲームをしました。
 僕らはお互いの家を『T君球場』『S君球場』と呼び合っていました。

 ある日の事、久しぶりにT君球場への誘いがありました。
 「明後日、僕の家でファミコンしよう。」
 もちろんOKの返事をすると、僕は明後日が楽しみでなりません。決戦の日に備えてコンピューター相手にファミスタの練習に明け暮れました。
 ところが、試合当日学校に行くと、この後に及んでT君が「やっぱり、今日の試合は中止。」と言うのです。
 納得いかない僕が食い下がると、「昨日の夜、ファミコンが壊れちゃった。」と言うのです。
 そんな事情があったのか。
 今考えれば、全く同じゲームなのだから僕の家ですれば良かったんです。
 なのにあの時の僕は、こんな提案をしてしまいました。
 「それじゃさ、僕のファミコンを持っていくから、T君球場で予定通り試合をしようよ。」
 となれば、T君に断る理由はありません。
 僕は家に帰るとカバンを投げ捨て、ファミコンを抱えるとお母さんにまで「T君球場に行ってくるぜ。」と言い残し、T君の家まで走っていきました。

 T君の部屋に上がりこみ、いよいよ試合開始です。
 待ちに待った試合に興奮して大声を上げていると、T君のお母さんが紅茶を持って上がってきました。
 そしてすごく優しい声で、
 「2人とも、あんまり大きな声を出したらダメよ。」
 と言って下りていきました。

 『いけね、舌をペロ』ぐらいの反省をしたものの、しばらくして僕が特大のホームランを打った時にまた「うぉー!!」と声を上げてしまいました。
 お母さんが上がってきました。
 さすがにちょっと気まずい雰囲気でしたが、お母さんは何も言わず優しく微笑んで、マドレーヌをくれました。
 笑顔のまま口に一本指を当て、「しーっ。」のジェスチャーをして、笑顔のまま下りていきました。

 まずい雰囲気は去り試合は再開。
 そして白熱した接戦はついに9回の裏を迎えました。
 確か僕がこの回を抑えれば逃げ切りという場面で、食い下がるT君の攻撃が2アウト満塁だったと思います。今まで割と静かにしていたT君が突然、「かっとばせー、ばあす!」と叫び始めたのです。
 僕も負けてはいられません。
 「頑張れ頑張れかとり!」
 応戦しました。

 T君球場が興奮に包まれたその時です。
 T君のお母さんが静かにドアを開けました。
 優しく微笑んでいました。
 ホッとしました。肉まんを2つお皿に乗せて持ってきてくれていました。
 僕が「あ、すいません。」と言おうとしたその瞬間、お母さんを押しのけてものすごい形相のT君のお父さんが飛び込んできました。
 お父さんはこんな意味合いの事を怒鳴り散らしていました。

 「この野郎!俺は朝から市場で働いて疲れてるってのに、眠れりゃしねぇだろ!」

 そして、僕らの陰になっていたファミコンを見つけると、さらに5倍ほど怒った顔になり、怒鳴り続けました。

 「なんだこれはー!!昨日ぶっ壊したのに、お前が買い与えたのかー!!」

 お父さんは震える僕たちを尻目に、振り向きざまにT君のお母さんをぶん殴りました。
 お母さんは飛びました。
 肉まんも飛びました。
 お母さんが声を上げて泣きました。
 比較的温厚な家庭に育った僕は、大人がお葬式以外で泣くのを初めて見ました。
 このあたりのシーンは今でも克明に思い出します。

 それでも収まらないお父さんは、僕のファミコンを掴むと床に叩き付けました。
 何か、取れちゃいけなそうな部品が四方に飛びました。
 そのいくつかが、もはや固まってしまった僕の前に転がりました。
 あまりの出来事が、僕の頭の許容量を超えてしまったのか、

 「こんな部品が入ってるんだ、ファミコンには。」

 みたいなことを考えていました。
 なんだか、とてもとても静かな広ーい広ーい部屋の片隅に僕がいて、映画か何かを観ているような気分になっていました。
 そして次の瞬間、T君が立ち上がりました。

 「もうたくさんだよぉー!!」

 号泣、絶叫でお父さんにタックルをかましました。
 僕はT君球場改め映画館から飛び出していました。

 数日後、家でボーッとしていると、母が呼ぶ声がしたので玄関に出てみると、T君のお母さんが新品のファミコンを手に母に頭を下げていました。
 「うちの子もしつけがなっていないから。」
 「いえいえ、とんでもございません。」
 T君のお母さんは僕を見つけると、
 「この間は本当にごめんなさいね。これからもうちの子と仲良くして下さいね。」と言い、缶入りクッキーを差し出しました。
 僕はそのお菓子を「中古だったファミコンが新品になったことで僕だけ既に得をしている訳だし、もらう訳にはいきません」という訳の分からない理由を述べて拒否しました。
 T君のお母さんはとても悲しそうな顔をしましたが、僕は部屋に入ってしまいました。
 母はクッキーを受け取りましたが僕は断固として食べませんでした。
 そしてT君とは気まずいままクラス替えで別々のクラスになってしまい、それっきりでした。

 伊集院さん、僕は大丈夫でしょうか。

 (匿名匿住所)

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